音海ミナちゃんに文章を朗読してもらった

プロジェクト「UUUP(みゅーぷ)」で生まれたUTAUキャラクター「音海(おとみ)ミナ」に文章を朗読してもらいました。今回は新入生歓迎VC企画「闇鍋★ショートストーリー」で生まれた短編文芸作品からピックアップした文章を読んでもらいました。

『地球最後の日森の奥でインド人がコーヒーをいれてもらった』

僕は走り出していた。枝が皮膚を引っ掻き、四肢が限界を訴える。けれども僕は走っていた。森の奥を目指していた

今日も変わらずに朝を迎える。インドの朝は早い。妻におはようの挨拶をしてカレーを食べ始める。いつもの定位置、僕の向かい側で妻が同じカレーを食べている。はずだったのに、妻の表情はいつもと違っていた。目の下には青紫のくまができ頬はこけている。昨日までは普通だったのにそう思うと、外がやけに騒々しいことに気づく。辛いカレーを口に頬張り水も飲まずに外へ出る。そこには慌てふためくインド人がいた。荷物をカバンに詰めるもの、子供を抱いて泣き叫ぶもの、僕にはその意味が分からなかった。
「何が起こったんだ!」
そう問いかける。すると長老が答えた。
今日世界が終わるんだ
僕は部屋に戻った。未だにその言葉を理解することができなかった。世界が終わる。昨日まで妻とカレーを食べ、野菜を採り、仲間と狩りをしていた。それなのに唐突にそれは終わりを迎えた。妻に最期の別れを言おう。せめて最期は一緒にいよう。口の中が辛いから一緒に水を飲もう。そう思って、妻を呼ぼうとした。するとそこには

死体の妻がいた。
僕の頭は真っ白になった。そして気づけば走り出していた。先程見た光景と同じ、泣き叫び暴れ狂う。僕も同じだった。木々の匂いが鼻につく。インドの自然は豊かだ。整備を受けていない木が生い茂り根を生やす。何度もそれに転び攻撃を受けた。叫んだ喉はスパイスと乾きでズタズタだった。もう帰り道も分からない。ここがインドなのかも分からない森の奥。そして辿り着いたんだ。見上げる少女はこう言った。

「コーヒー、いりませんか?」

『春の日の午後崖で自分がハンドルを右にした』

暖かくなってきた春の午後。桜の花びらの散る姿が美しい。私は今、取りたてホヤホヤの運転免許を片手に、バイクで走り出す。山道をバイクで走るのはとても気持ちいい。さらに盗んだバイクと言うところが気持ち良さを加速させる。しかし、山道は危険なので減速した。曲がり道が多いが、上り道だからスピードを出さないと下ってしまう。考えることが多すぎる。だが、良いところもある。辛い仕事のことも人間関係もそれ関連のもの何もかもを忘れさせてくれる。「もうこのままずっと楽で居たい。」山頂に近づくに連れ、その思いが強くなってきた。もう何回目かも覚えていない左カーブに差し掛かった。だから、僕はハンドルを右に傾けた。

『100年前大学で女子高生が警備のバイトをした。』

 今から100年前のお話、ある町にひときわ立派な大学がありました。その大学では、夜な夜な不審な影がうごめくという噂があり、学生たちを不安にさせていました。そこで、大学は警備を強化することにしましたが、人手が足りません。そこで、大学は近くの高校に警備のアルバイトの募集をしました。
 そのアルバイトの募集がされていた高校に1人の少女がいました。少女の家はとても貧しく、その日その日を暮らすのにもやっとの思いでした。そんな境遇ですから、少女は高い時給の警備のアルバイトにすぐに食いつきました。周囲の人々は危険だからと少女を止めましたが、少女は聞く耳を持たず、アルバイトの申し込みをしました。
 アルバイトをして初日、少女は大学内を警備していました。その時、だれもいないはずの教室で何やら人の声がします。少女は恐る恐る扉を開けて中を見てみました。
そこには、数人の大学生がとある実験を行っていました。
 その実験はかなり危険性が高い物でもありましたが、大学生たちは危険性を理解していたため、しっかりと対策を取っていました。しかし、少女はそうではありません。危険な実験に巻き込まれた少女は、何もわからないまま無残な姿になってしまいました。
 大学生たちは、自分たちの実験で被害者が出たとなれば問題になると思い、少女の遺体を隠し、実験を続けました。
 それから100年後、現在ではその実験により、世界中に人々の役に立つ製品が生み出されましたが、その実験に被害者がいたことは今では誰も知りません。世の中ではその実験は被害者を出さずに安全に成果を成し遂げたと語り継がれています。
 さて、この大学では少女のほかにも多くの女子高生、男子高生を警備員として雇っていましたが、果たしてその少女だけが巻き込まれたのでしょうか。真実はわかりません。なにせ100年も前の事ですから…。

『この間自宅でデジ創マン(デジ創アイコンを被った謎の男)が愛を知った』

TOKAI ENTRANCE FESTIVAL 325日目————
「今度こそ...この祭りを終わらせるッ!!」
デジ創マンはボロボロになりながら湘南キャンパスを駆け回った。
向かうは芝生広場。祝宴の終わりを告げにゆくのだ。
「待つんだ...デジ創マンッ...!」
「お前は...新入生への大事な配達物を見知らぬ人に渡した無能リッキー!?」
「いつまでもその話題を引きずるのはやめろ...」
諸悪の根源であるリッキーはデジ創マンの手によって血みどろになって倒れていた。
「お前はいま、この祭りを終わらせることとなる、それは何故か?」
祭りの喧騒の中、静かな声が体躯に伝わる。
「お前はこの東海大学の人々をすべて、幸せにしたのだ、デジ創マン」
「この俺が...?」
1日目のときは想像もしなかった、デジタル創作がこの祭り、大学をも変えるとは。
「お前がこの大学の革命を担うんだ、デジ創マン、行くのだ!」
踵を返し、返事もせずに、体は風のように駆け抜けた。
「さぁ、祭りの締めはお待ちかねの!打ち上げ花火です!お楽しみください!」
アナウンスが聞こえた。広場の雑踏の中を掻き分け、キャンプファイヤーの前に立った。
司会のマイクを奪い、俺は力を振り絞って叫んだ。
「これでホントのホントに終わりだ!デジタルが!世を変えるのだ!」
デジタルの空に花火が打ち上がった。光と熱が会場を湧き上がらせた。
ファンファーレとシンセサイザーが人々を祝福した。
デジ創マンの祭りはこれで終わった。




————目を覚ました頃には自宅のベッドに突っ伏していた。
枕元の時計は4月3日を示していた。
「ようやく、終わったのか...」
まだ夜は深いようで、部屋は濃紺に満ちていた。

ふと、目の前の空気が揺らぎ、人影が浮かび上がった。
「松前重義ッ...!?」
それは間違えなく松前重義だった。
「デジ創マン...よく祭りを終わらせてくれた...お前は、すべての東海大を喜びに満たした。おまえは、愛を与えた。」
「俺が...愛を...」
デジ創マンは愛を知った。途端、涙が流れた。涙を流したのはいつぶりだっただろうか。
わけのわからぬ感情に押しつぶされているうちに、デジ創マンは再び深い眠りについた。